《MUMEI》

イ「シド様、戻りました」
「帰ったか……どうだった」
イ「ゼスが言っていた通り、ランドルシア王国
が立っていました。しかし中に入ることは出来
ず、遠目からですが中に誰もいないようでした」
「誰も?」
イ「はい。それに、確かに王国はありましたが
……色が石のように灰色で、まるで時間が止ま
っているようでした」
「時間が止まる、か……それとイズモ、左手ど
うした?」
イ「っ!」


ランドルシア王国の過去の書類を調べていると
イズモが偵察から戻ってきていた。だが、袖に
隠しているようだが強い魔力が左手に止まって
いるのを感じとり、眉を寄せた。イズモはバツ
が悪そうに隠していた左の袖を捲った。


「!これは……」


いつもの服と同じ黒い籠手をつけておらず、細
く白く綺麗だった腕は二倍くらいにパンパンに
膨れ上がり、青黒くなっていた。


「巨大な魔力が左手に集中して今にも弾けそう
になっている……一体何があった」
イ「王国に入ろうとしたとき、シールドの様な
膜に覆われているのに気付いて、それに触った
ら……このように」
「シールド…恐らくは魔法で作られているのだ
ろう。そのシールドの膨大な魔力がイズモの左
手に流れたのが溜まって腫れたようだな。……
痛いだろうに」
イ「この程度の事、気になさらないでください」
「これを気になさらない者はもはや人ではない
な」
イ「え?……っシド様、触っては……」
「大丈夫だから、ジッとしていろ」


そっとイズモの左手に触れると魔力が脈を打ち、
大きくなっているのが分かった。


「(このままでは破裂してしまう…仕方ない、
上手くいくかは分からないが…)イズモ、動くな
よ」
イ「!っな!?」


俺はイズモの左手の親指を加え、魔力を吸いだ
そうとした。イズモは離れようとしたが、一睨
みしたら渋々大人しくなった。魔力が俺の中に
流れてきているようで、イズモの左手の膨らみ
は少しずつ小さくなり、色は残ったが、元の大
きさに戻っていた。


指を離してあげるとイズモは顔を真っ赤にして
戸惑う様子がおかしくて思わず笑ってしまった。

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