《MUMEI》

「もー!おばさんがせっかく朝ごはん用意してくれてるのに、あーくんはいつもいつもお寝坊さんすぎるんだよ」

ふんす!と鼻息も荒く、フユカのお説教が始まった。ほら、やっぱりこいつ、自分のほうがおれよりお姉さんだと思っている。

つか、おれの名前は有文アラタ(ありふみあらた)だ。「あーくん」言うな。略しすぎだっつーの。

「マジ寝不足なんだから勘弁してくれ。学校なんて徒歩で通える距離なんだし、8時15分まで寝ててもチャリンコダッシュすればギリギリ間に合うだろ……」

おれの至極真っ当な抗議をスルーして、フユカの小言は続く。

「どうせまた深夜アニメでも観て夜更かししてたんでしょ。今からそんなんだと、大人になったらスネップになっちゃうよ!スネップはニートの新型なんだよ。連休中もずっとそうやってダラダラしてたの?」

……どうして寝不足なのか?休みの間、何をしていたかって?

いやー実は「おれの嫁」をかわるがわる呼び出して、あんなことやこんなことしまくりで、もう最高でさ……なんて説明できるわけもない。おれは、

「……べつに、こっちはいつもと変わらずの休日を満喫したよ。そういや、おまえん家は海外旅行に行ってたんだっけ。どうだったよ?」

と話を逸らす。幸い、フユカはおれの逆質問に食いつき、

「そう、そうなんだよ!お父さんと2人でタイに行ってきたんだよ!」と頬を紅潮させ報告を始めた。

「ラーメンがチョイ辛でね、ソムタムが激辛でね、カニのカレーが美味しくてね……で、なんだかんだあってカンボジアに行ってアンコールワットも観てきたよ!」

フユカはほぼ食べ物ネタオンリーで色気のない家族旅行の感想を述べると、「あーくん、フィギュアとか好きでしょ。それ、大事にしてね」とおれの腹のあたりを指さして微笑んだ。

見ると、ベッドにミニ仏像が転がっている。さっき腹に感じた衝撃の正体はこれだったか。仏像はフィギュアじゃないんだが。てか、これ頭とかに直撃してたらやばかっただろ……。

ずっしりと重い、フユカからのお土産。身の危険を感じたおれは観念して、しぶしぶ起きることにした。

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