《MUMEI》

相手は座り込んでしまっている田所を軽々と肩の上へと抱え上げながら
「お前は、あの女より壊し甲斐がありそうだからな」
耳元に囁かれたのは、寒気を感じてしまいそうな程冷酷な音
何故か酷く恐怖を覚え
これ以上は聞いていたくないと、田所は耐えきれず意識を手放してしまっていた
「千尋様、これからどうするおつもりで?」
完全に意識を手放してしまった田所を抱えたまま踵を返す相手へ
何時の間にそこに居たのか
物陰に潜んでいたらしい別の人物が声を掛けてくる
相手は僅かに表情を顰めながら
「……マンションに戻る。家の方は暫く時間を稼げ」
それだけを言い放つと、行け、と手で払う
その人物は瞬間戸惑ったようだったが、直ぐに頭を下げ身を翻した
去っていく後ろ姿を見送ると相手も身を翻し歩き出す
暫く歩き到着したのはとあるマンション、その一室
中へと入ればソコはシンプルなワンルーム
まるで生活感のないソコにあるベッドへと田所を放りだす
未だ意識を取り戻さない田所
僅かに身じろぎ寝返りを打つその様を相手は暫く眺め
徐に田所の上へと覆い被さる様にベッドへと乗っていた
そして着衣の裾から除く肌に手を這わせる
男の割に線の細い身体
何となく触れてみた肌も手触りがよく、相手は肩を揺らす
「……っ」
何度も肌の上を滑る手の感触に
田所は僅かに息意を吐き、また身じろぐ
意識は無くとも感じるのかと、相手は田所の着衣を更に肌蹴させ
露わになった肌に、改めて触れてみた
深く触れてやり、漸く田所は意識を取り戻す
ゆるり眼を開き、暫くはぼんやりとしていた田所だったが
男に乗られているという現状に驚き、一気に思考を取り戻した
「お前、何して――!」
喚いてやろうとしたその口を相手の手に塞がれ
その手がすぐに離れていったかと思えば、相手の唇が覆うように田所のソレを塞いできた
互いの間を行き来する、どちらのものかわからなくなってしまった唾液と、其処から聞こえてくる湿った音
何がどうなってこうなった?
その音に耳の奥を犯されながらも、何とか現状を打破しようと思考を巡らせ始める
「考え事とは、随分と余裕だな」
考える事ばかりに気を取られ、無防備になった身体
肌をなどるその指は表皮をなどるだけでは飽きたらしく
中へと触れようとソコに触れた
「此処を触れられるのは初めてか?」
経験したことのないその感覚に身体を震わせ耐えていると
笑みを含ませた声が耳元
からかわれている
今すぐにでも殴りかかってやりたい、そう思って居るのに
「何か、ある。嫌、だ……!」
本来ならば入るべき場所ではないソコに入ってくる異物に戦き
身動きが取れないでいる
「この程度音を上げられては困る」
嘲る様な声が耳元で響き
身の内の違和感が抜ける様に消えて失せる
漸くなくなったソレに安堵の溜息をはいけば
だがすぐに、別の何かが宛がわれた
「嫌、だ。嫌だぁ!!」
与えられる痛みに、相手の指をかみながら叫ぶことを続ける
逃げ出したい、自分が置かれている現状から、そそてこの痛みから
見開いた目から涙が一筋流れ出した次の瞬間
来客を知らせるチャイムが鳴り
「千尋さん、ちょっと宜しいかしら?」
戸越に女性の声が聞こえてくる
相手は軽く舌を打つと一時田所から離れ、来客を出迎える
何か用かを問うその声は、更に冷たく強張った様なソレに聞こえた
「あなたにそんな趣味があったなんて、意外だわ」
「……態々からかいに来たのか?」
「そんな訳ないでしょう?見に来たのよ。あなたの許嫁がどんな(お嬢さん)なのかを」
来客の視線が田所へと向けられる
情事に濡れた身体
慌てて布団で隠すが時既に遅く、その来客は笑みを浮かべると田所の傍らへ
伏せていた顔を、来客の指が顎に触れそのまま上げさせられる
「お爺様がみたら、腰を抜かすんじゃないかしら?」
男だなんて、と笑う女性
相手は僅かに肩を揺らすと、いっそ死ねばいいと悪態を吐いた
「そんな事、言うものではないわ。それでなくとも老い先短いのだから」
窘める様な物言いに、だが相手は何を返す事も無く
女性を睨み付ける
「怖い顔。分かった、今日はもう帰るわよ」
溜息を吐くと女性は身を翻し、その場を後に

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