《MUMEI》

身支度を済ませ、手早く朝メシをかきこむと、おれとフユカ、小学3年生の妹、リサの3人で家を出た。

ゴールデンウィークの連休も終わって、今日からまた学校が始まる。

リサの小学校はおれたちと逆方向だ。「クルマと変質者とハイエースにはくれぐれも気をつけろよ」と適切なアドバイスをあたえ送り出す。

いまのご時世、市内でもいろんなロリコン犯罪事案が発生している。警戒するにこしたことはない。

リサは「フユカちゃん、またよるごはんでねー」と手を振ると、学校めがけて意味もなく駆け出していった。

おまえは、どこぞのアニメのオープニングか。とりあえず走っとけばOKみたいな。なんせ危ないから、いきなり交差点で飛び出したりはするなよな。

「おばさんにすき焼きのおつかい頼まれちゃったねー。あーくん、放課後、一緒にスーパーに買いに行こうねー!」

いつもにも増して朝からテンションの高いフユカは、手を振ってリサを見送ると、「ドタキャンや遅刻は厳禁だよー!」と爽やかな笑みでおれに念を押す。

おまえは鍋センスのない裸の鍋奉行っていうか、ひとりでおつかいに行かせるとたいてい肉ばっか買って野菜を失念するからな。へいへい、わーってるよ、と生返事を返しつつ歩きはじめた。

家からうちの高校までの道のりは、のんびり歩いて約20分といったところだ。

およそひと駅分は離れているのだが、自宅と学校、駅の位置関係がビミョーすぎて、電車に乗っても歩いても、結局のところ所要時間はほとんど変わらない。

ならば、朝のラッシュアワーだけはごめんこうむりたいというわけで、この春からはテクテクと徒歩通学を満喫しているおれたちである。

どうしても間に合いそうにないときはチャリを使ったりもする。

が、校内の駐輪スペースに限りがあるとかで、本来、自転車通学は徒歩30分以上かかる生徒にしか許可されない。

裏ルートを通せば、近場の生徒であっても校内駐輪許可証がもらえるとか、学校周辺のオススメ違法駐輪スポットはココだ!とか、抜け道もあるにはあるのだが、ま、いまのとこチャリ通学は緊急手段ってわけだ。

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