《MUMEI》

福来のおばさんが亡くなった中一の頃といえば、ちょうど思春期の真っ只中。

おれとフユカはお互いを変に意識してしまい、少しギクシャクというか、とくにこれといった理由もなく疎遠になっていた時期だった。

けど、すっかり塞ぎ込み、生気を失ってしまったフユカの顔をみて、おれはおれで、おれなりに、何かフユカの力になれることはないか、いろいろ考えた。

いや、力になるとか、そんなたいそうな話じゃあないか。単に、いつものフユカの笑顔をもう一度見たかったんだな。

それで毎月「ニクの日」には、メシを食ったあと、おれの部屋で、なぜか女ファンの多い野球アニメを一緒に観て男視点の感想を語ってやったり。

あるいは、ウイイレの接待プレイでサウジアラビアをもち、全然シュートが枠に入らないフユカの日本代表を勝たせてやったり。

とはいえ、負けてばかりでは男の沽券に関わるので、『ぷよぷよ』対決では19連鎖で瞬殺してやったりもしたっけ。

端から見ると単にじゃれあっているようにしか見えなかったと思うが、中学に上がる前みたいに、またふたりでいろんな話をするようになったわけだ。

まだガキだったし、フユカを元気づけると言っても、おれにはせいぜい「一緒に遊ぶ」くらいしか思いつかなかったしな。

副作用として、おれの影響を受けたフユカがオタク趣味にのめり込んでしまったが、少なくとも表面上、快活な性格は戻った。

むろん、心の傷は完全には癒えないのだろうけど。

それでも、今日みたいに五月病とは無縁の笑顔を見せてくれると、なんだかホッとしてしまう。

あとは時間がゆっくり解決してくれるに違いない。

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