《MUMEI》
委員長の長尾ナツホは監禁する
フユカの電撃的な詰問に対し、「それって変猫のモノマネか?似てねー」とか、「むしろ筒隠月子より小豆梓のほうが萌えるは」とか、すっとぼけた返ししか思いつかなかったおれは、

「じゃ……じゃあまた後でな。おまえの教室まで迎えに行くし……」

と逃げ出すように、そそくさと早足であの場を離れることしかできなかった。

そんなおれを、フユカはどんな顔で見送ったのだろう。

まだ心臓がバクバクいっている。深呼吸で息を整えつつ、下駄箱で上履きに履きかえ、自分のクラス1−Bの教室を目指す。

フユカは「部屋に女子を入れたよね?」と、確信を持った口調で問い、その上で、検事が裁判官と被告人の前で動かぬ証拠を提示するように「あーくんは本当に変態さんですね」とダメ押しした。

これを字義通り、素直に解釈するなら、フユカは昨晩のこと――おれが肉欲のおもむくまま筒隠月子を陵辱したこと――を知っていて、それを咎めているとしか考えられない。

「おれの嫁」の秘密全般について、勘づいている可能性すら出てくる。出てきてしまう。

いや、しかしである。この春からの「おれの嫁」たちとの関係は、フユカを含め一切、誰にも口外したことがないのだ。

もちろん、付き合いの長いフユカは、自分がリヴァイ兵長にハマっているのと同様に、おれにもお気に入りのキャラクターがいることくらいは理解している。

あいつにオタク趣味を教育したのはおれだしな。

けど、それはあくまで趣味の範疇の話にすぎない。それとこれとは話が別だ。

一般常識においては、アニメの二次元ヒロインが現実世界に介入してくることなど100パーセントあり得ない。しょせん妄想の産物にすぎない女の子を、部屋に入れるも入れないも、ないのだ。

フユカの問いかけは、前提からして間違っている。

宇宙の物理法則に反している。

だからこそ、恐ろしい。

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