《MUMEI》

あるいは、おれの思い過ごし、ただの偶然なのかもしれない。

フユカは気まぐれに、今期アニメの中から、おれが観ているであろう作品の、おれ好みっぽいヒロインを選び出して、その話題をふった。

それがたまたま、『変猫』の筒隠月子だった。それ自体は、じゅうぶんにあり得る話だ。

で、「同じカマのメシを食った幼馴染み同士」だけに、イタズラ心で、ちょっとカマをかけてみたとか?

あいつが言っていたのは「同じ炊飯器のごはん」だったか……。ま、その線のほうが、まだ可能性は高い気がする。

だけど、じゃあなぜ、フユカは不機嫌な微笑で「部屋に入れたよね」なんて苦言を呈する必要があった?

やっぱり釈然としない。心が晴れない。

「たまたま、偶然」で片付けるには、さっきのフユカの一言一句にぞっとしない要素が多すぎるのだ。

幼馴染みとの平和な関係を維持していくためにも、始まったばかりの高校生活を台無しにしないためにも、いちど冷静にいまの状況を整理し、対策を練る必要があるだろう。

幸か不幸か、きょうは休み明けというのに6限目まできっちり授業がある。いつものおれなら辟易するところだが、昼休みをはさんで夕方までたっぷり、考えをまとめる時間がとれる。

放課後まで、フユカとは顔を合わせないように気をつけないといけない。

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