《MUMEI》

 長い独占インタビューが終わったか。ここで担任から、最後の一年について話しているが、僕はもう進路を決めている。自分でいうのも恥ずかしいが、高校生活をフルに活用しているのは僕だけだと確信している。高校一年目で高2レベルまで勉強に励み、二年目で進路を考え、高3で決めた進路に向けてまた勉強に力を入れる。だから僕は高2の春休み直前、その時の担任に進路希望を出した。早すぎるとは言われたが、これぐらいでないと、この就職難は乗り切れない。それを中2で感じた。
 午前で学校が終わるたび、不思議な感覚に落ちる。とくに天気がいい日には、開放感が溢れるというのか、清々しい中にも寂しさがつんと来る。それがなんとも言えない。
 「あの、すいません……」
 誰かと思えばアイドルか。転校初日で焦っているのか?……それにしては、あまりにも無謀だ。僕が、女子に慣れなてない内外(面)どちらにせよ不細工な男子なら、一年中熱い視線を浴びるか、遊びに誘われていただろう。それが悪いとは言わないが、僕が彼女ならこの上なく面倒くさい。幸い、僕は女子の免疫は人並み以上にある。友達はいないとしても、生徒同士、会話はする。短く価値的に。 「やっぱりそうだ團
 理由はそれだけだ。根本を言うと、僕は生まれてから異性を意識したことはない。どうしてなのかは分からないが、あえて言うなら天然。独りを貫く、一種の才能だと喜んでいる。話しはそれたが、声を掛ける相手はどのみち外れだ。僕は会話はしないし、リアクションも取らない。ただ聞き流す。
 「確か新井くんだよね。同じクラスになった女子が言ってたんだよ。あいつは無害だって。だからって声をかけた訳じゃないよ。たまたま帰り道一緒だったから。だからって誰でもじゃないよ。この人となら仲良くなれるかもって思わないと、声は掛けられないよ。あっそうだ、これみて、じゃん、手作りクッキー焼いたんだ。ホントは、学校帰りに公園で食べようと思って作ったんだけど、以外と落ち着ける公園ないんだよね。もしよかったら食べる?、いらないなら私うちで食べようかな。でもせっかくだし、二人で食べてもいいかも……そうしよ、良いでしょ。どこら辺が良いんだろ。そうなると、やっぱり公園だよね」
 長い、長過ぎる。こんなにしゃべる女子高生は初めてだ。高年齢の女性にみられるタイプ。話しを終わらせようとしても、ジャブを打ち続け、またコーナリングに追い詰める。こういうタイプは無視は効かない。むしろ逆効果。ならばやることは一つ、蔑[さげす]む視線を送る。これで大半の人は気づく、自分がいかに他人に迷惑をかけているかを。
 「あっごめんォ、勝手だよね。新井くんの都合も聞かずに決めちゃって。何か用事があるならいつか暇なときで良いよ。………明日から授業かぁ〜。私、数学苦手なんだよねぇ。新井くんは苦手科目ある?なんか見た目だと体育って感じするけど、当たり?体が細いし、でも以外と得意だったりして。跳び箱10段は余裕ですみたいな」止まらない。思った以上に彼女はKYだったらしい。
 この場合、直接言うのが効一番果はあるが、僕はそこまで鬼にはなれない。ではどうするか?。簡単だ。疲れたっぷりにため息をつく。
 「はぁ〜」ため息は、思っているよりも耳に入りやすく、人を不快感にさせる。もっとも、一番の使いどころは悩みを聞いてほしいか、話を聞いてほしいとき。嫌でも「どうしたの?」と聞かずには居られない。ま、それは、シチュエーションにもよるが……。
 「私帰りはこっちだから、また明日。じゃあね」
 トラックが通り、ため息は届かなかったようだ。それはそれでよしとしよう。
 僕の家は2階建ての一軒家だ。家族は両親と10歳違いの姉と3歳違いの妹がいる。家族は僕に友達がいないことと、その理由を知っている。ほとんどの人が隠すことでも、僕は隠さずに話す。あとから話したり、担任から聞かせられると問題があると思われる。だが最初から納得させとけば、問題扱いは最小限に押さえられる。
 授業初日。多少憂鬱ではあるな。勘違いしてほしくないのは、僕が優等生で勉強好きではないということだ。教えてもらうより、自分でやった方が早いし、下手な授業する教師のときは辛いものがある。

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