《MUMEI》

1−Bの教室に入ると、席の半分以上がすでに埋まっていた。

朝のホームルームまであと10分ほど。

皆、休み中はどこそこに行ったとか、この写真やべーとか、LINE未読で気づかなかったわーとか、とりあえず学校だりーとか、連休中のみやげ話に花を咲かせている。

とりわけ、女子の一軍グループ(とおれが勝手に命名している)は賑やかで圧倒されてしまう。どうやったら朝からそんなに声が通るんだ、ぜひコツを教えてほしい。でもやっぱ遠慮しときます、はい。

そんなクラスメイトたちの間を縫い、低血圧アンデッドの足取りで窓際最後列の自席に辿りつくと、おーらーどっこいしょーーはぁーーーっと着席する。

1限目に備え、休み中も置きっぱなしにしていた教科書や参考書を検分していると、

「うぃーっす。ひさしぶりやなーアラタ。調子はどないや」

もうずいぶんと聞き慣れた、うさんくさいノリの関西弁が聞こえた。ひとつ前の席の田村だ。

「アラタ、きょうも福来さんとイチャイチャ登校してたやろ。ほんま仲ええなー。おまえら、やっぱ付き合っとん?休みの間になんぞ進展あったんかー?」

おい田村、やめとけ。

美少女ゲームにおける、主人公の親友役みたいなセリフばかり吐いてると、おまえの熱望する巨乳彼女なんて未来永劫できんぞ。

それとも何か?おれが電話なりメールなりしたら、校内各ヒロインの現在の好感度を数字で教えてくれるブラック仕事につきたいとでも言うのか?

「ばっかおまえ。フユカはそういうんじゃねーって言ってるだろ。休み中、あいつは家族旅行、おれは家で適当にVITAしてたわ」

さっきも、家の前で鉢合わせしたから、一緒に登校しただけだよ、と返す。

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