《MUMEI》

「取り敢えず部屋に入るとこからね。何号室にいるのかしら。」

早歩きで直ぐに湊川に追い付き、何事もなかったかの如く抜かしてから、先に病院内に足を踏み入れた。

外観もその広さを物語っていたが、内も中々大したものだ。

だが、雰囲気は何処の病院とも変わらない。

入ってすぐの正面に受付らしきものが見えたので、其処を目指す。

「あの、柊 茉莉乃さんは何号室でしょうか。見舞いです。」

「柊様ですね。えーっと、308号室です。病院内にいるときはことバッチをつけておいて下さいね。」

「あ、はい。」

バッチを二人分受け取り、それぞれ腰に付けた。

「三階。」

私が湊川にそう言うと、少し不貞腐れた表情を浮かべてからエレベーターの登るマークのボタンを押した。

丁度三階に止まっていたらしいので、すぐに来るだろう。

「変なことはしないでね。あと、滅多に口を開かないで。」

「じゃあ俺何しに来たんすかぁ。」

語尾を伸ばした辺りに不満感が見え透いているが、あえて何も言わないでおく。

チーン

案の定、一分もかからなかった。

エレベーターが開く。

中には女性が一人。

女性がエレベーターから出る際に、私は肩をぶつけてしまった。

「「すみません。」」

ほぼ同時に言葉を発し、ほぼ同時に顔を見合わせた。

一瞬で理解した。

「柊 真綾!」

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