《MUMEI》

「では、暗くなる前に行くぞ。……ロイド、ゼ
ス、どうした?」


兵達の気合いを見て、これなら大丈夫だろうと
思い、後ろにいたロイド達の方を見るとロイド
とゼスは妙に疲れた顔で座り込み、クロードは
それはそれは綺麗な笑顔でこちらを見ていた。
なんとも近寄り違い雰囲気だったが、今は午後
を過ぎた頃、時間がないため、仕方ない。


ロ「……いえ」
ゼ「何でもないです」
「そうか?……疲れていないなら、行くぞ。ク
ロード案内を」
ク「はい、陛下」


林の中に入ると外から想像していたより暗く、
険しかった。道はないのにクロードは慣れたよ
うにスタスタと道なき道を歩いていた。


「魔法がかけられているな」
ク「やはり陛下には分かりますか」
「微量にな」
ロ「魔力は感じられませんが……?」
ク「ハーフの者だけに感じられる特別な魔法の
ため、感じられないのも不思議はありません」
ロ「ということはゼスにも?」ゼ「あぁ、何か引き付けられる魔力を感じる」
ク「それを例え微量でも感じられる陛下は本当
に何者なんでしょうか」
「……さぁな」


楽しげに細められた目を俺に向けてくるクロー
ドを一瞥して目を反らした。


普通の人間には感じられない魔力を感じられる。
自分は本当に人間何だろうか、神の子孫として
生まれたからなのか、転生したからなのか。あ
まり考えなかったが、俺の魔力の半分を父王の
宝玉に封印して地下に大事に保管している。そ
れでも使う魔力は強力で調整しなければ、小さ
な火を出すにも大規模な爆発を起こしてしまう。


ハッキリそう言えるのは魔力の活性化を言わな
かったロイドに軽いお仕置きとして驚かそうと
火を目の前で起こそうとしたら爆発になり、そ
れ以来これを本気だと思ったらしいロイドはお
仕置きという言葉に怯えるようになった。自分
でも反省はしているが随分と扱いやすくなった
ロイドに結果オーライとして訂正はしなかった。


宝玉の魔力を戻したとき、自分は果たして人間
でいられるのか――。


「ぶっ……!」
ロ「シド様?」


考え込んでいたせいで前で立ち止まったロイド
の背中に思いきりぶつかってしまった。


「っすまん、よそ見をしていた。で、着いたの
か?」
ロ「はい、そこの穴がそうだそうです」


ロイドの指差す先には大きな木が壁にくっつい
たように生えていて、根っこは太く壁や地面に力強く根付いていた。


「ここが、抜け道か?」
ク「そうです。ちょっと待っていてください。
今、道を開けます」
「分かった」
ク「―シークット・ノスタルギア・ロトゥンド
ゥマ―(革命のような郷愁)」


クロードは木の前に立ち、木に向かって手をか
ざし合言葉を紡いだ。


すると木の根本が独りでに動き、この中では図
体の大きいゼスが屈んでギリギリ通れるかどう
かの大きさの穴が空いていた。

穴に踏み込むと中意外と広く空間があるが暗く
、先は見えなかった。


ク「―イーグニス―(火よ)」


先に入ったクロードが魔法で手のひらに火を出
した。呪文を唱えるその行為を見たのは初めて
だった。俺の場合、想像していた魔法を出して
いたからだ。そもそも俺は呪文を一つも知らな
かったのが理由だったが、目の前の光景が本当
は一般的であることを思い出した。


気づけば己の存在に怯える自分がいて、手を握
りしめたその痛みで思考を無理矢理反らせた。


ゼ「うおっ!?」
ロ「大丈夫か?」
ゼ「足元に岩があるのに気付かなかったぜ」


クロードの火の灯りのお陰で少しは回りが見え
るようになったが、1つの灯りでは足元や天井
は見えなかった。


「クロード、私が変わろう」
ク「え?」


指をパチンと鳴らせば十の火の玉が俺達の回り
をフワフワと浮かび、かなりの広範囲が見える
ようになった。


ク「流石です陛下。是非解体したいものです」
「ありがとう、だが断る!」

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