《MUMEI》

再度、二人きりの室内
相手は溜息を吐くとゆるり田所の傍らへ
ベッドが僅かに軋む音を立てれば無意識に身体が震える
「……っ!」
頬に手が触れてきたかと思えば重ねられた唇
残る情事の余韻に、身体は直ぐに熱を帯び
中心が、甘い疼きを覚える
「も、嫌だ……っ!」
何とか相手の腕を振り払い、距離を取る
ベッドの上で後ずさる田所の様に
相手は歪な笑みを浮かべながら、その様を眺め見るばかりだ
「……」
話が出来る状況ではない
相手は溜息を吐くと、取り敢えず外へと出る
「手懐けられる気がしない?」
出るなり壁に身を寄りかからせていた女性が声を掛けてくる
苛立ちも露わに女性を睨み付け、まだ居たのかを吐き捨てた
「別に彼にこだわる必要は無いのではなくて?別のお嬢さんを代わりに据えればいいのだから」
何故こだわる事をするのかを問う
相手はその問いに何を答えるでもなく
女性へと一瞥を向けるとそのまま駐車場へと歩き出した
その後を女性も付いて歩く
「我が息子ながら、よく分からない男ね」
「あんたの息子だからな。当然だろう」
互いに嫌味を言い合うと、相手は駐車場にある自身の車へと乗り込んだ
その助手席に、女性も当然の如く乗り込んでくる
「どうせお爺様の処に行くのでしょう?ついでに乗せて行って頂戴な」
私も行くついでがあるから、との女性
断るのもいちいち面倒になってしまったらしい相手はそのまま車を走らせ始めた
その間互いに交わす言葉は無く、目的地に到着
蹴る様に表戸を開けば、目当ての人物が立って居た
「千尋、一人か?許嫁はどうした?」
見て分かる程あからさまに落胆して見せる祖父へ
相手は溜息を吐くと
「正式な顔見せはまだだろう?その時まで待て」
「なら何をしに来た?文句でも言いに来たのか?」
此処に来たその理由を見抜かれ、相手は何も言わずそのまま
段々と苛立ちだけが募っていき、相手は煙草を取って出すと一本銜える
やはりこんな所になど来るんじゃなかった、と
また出てしまう溜息を白い煙を吐く事で誤魔化していた
「……帰る」
これ以上ここに居ても仕方がないと身を翻しその場を後に
自宅へと帰り着き、玄関を開けるとそこに
床を這うようにソコまで来たのだろうか、座り込んでしまっている田所に出くわした
相手を見るなり、田所は表情を強張らせる
「逃げ出そうとでも、していたのか?」
その腕を掴み上げ、相手は田所の身体をいとも容易く肩の上へと担ぎ上げた
まるで荷物の様に扱われ
結局田所はまたベッドの上へと戻されてしまっていた
「離せ、帰る……っ!」
「そう言って、本当に話してやる馬鹿が居たら、見てみたいものだな」
田所の言葉を軽くあしらい、相手の手がまた田所の身体に触れる
拒みたい、逃げ出してしまいたい
そう頭では考えている居るのに、どうしてか身体が動かない
「随分と、諦めが早いな」
嘲る様な声。そう、この声が悪い
有無を言わさぬほどの支配力、その中に見える、支配欲
そのどちらともが、田所の身体をとらえて離さない
「……いや、だ」
せめて心だけでも抵抗を試みるが
相手の身体を押し戻そうと触れさせたその手は
だが唯縋るためだけのソレに成り代わってしまう
その手を相手は取ると、田所に見せ付けるかの様に指を口に含む
温く、湿った感覚
一本ずつ厭らしく舐め回され、その感触に田所の身体の奥が甘く疼いた
見て分かってしまうほどのその変化に、相手の手がそこに触れる
「……嫌、……ぁ」
張り詰めていくソコを楽にしてほしいと身を捩りながらも
覚えたばかりのあの瞬間の痛みに、田所は身体を小刻みに震わせた
見ていてそれが余りに哀れに見えたのか
相手は深く溜息を吐くと、田所の身体を柔らかに抱く
まるで大事なモノでも扱うかのように本当に優しく
「そんなに泣くな。夏生」
名前を呼ぶ声さえも耳に優しく
その変化に動揺し、田所は更に身体を震わせた
まるで恋人に呼ぶように名前など呼ばないでほしい
何もかもが解らなくなってしまいそうで
自分さえもこの男の何かに捕らわれてしまいそうだと
田所は何度も首を横へと振って見せた
「……嫌だ、帰る。もう帰る!」
「それは、認めない」
「何で!?」

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