《MUMEI》

キッチンにいき、棚からすっかり錆びれたフライパンを出す。

少年はそれをタオルで大雑把に拭くと、コンロに置き、火をかけた。

フライパンの上に少量油をたらすと、冷蔵庫から玉子を二つ出し、片手で器用に割っていく。

それからベーコンもいくらか足し、丁度良い頃合いになると、皿にトマトと共に盛り付けた。

棚からパンも出して、皿と共に机の上に置く。

これが、いつもの日課だ。

少年は手を拭くと床に座り、いただきますも言わぬまま器用にそれを食べ始めた。

…今日はこれから忙しい。

そう、少年には、今日は珍しく用があった。

チラリと壁にかけてある7分ずれた時計を見る。


一秒たりとも、遅れてはならない。

少年は残った目玉焼きを口の中にかっこむと、皿を流しにおいた。
手早く歯磨きをしてカーキ色のコートを着る。

そして少年は静かに家を出た。






それから少年は家に戻ってこなかった。

今はなき偉大なる機械都市、ディアンティナのある一角の話。

631年。

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