《MUMEI》 「本当ですか?良かった」 鳥谷ソレにさも嬉しそうな小鴨 そんな笑い顔に、鳥谷も自然と笑う声を漏らす それから暫く弁当を味わいながら、この後どうするかを話し合う 何か乗りたいモノは無いのかを問うてやれば 「次は鳥谷君の好きなものに乗りましょう!」 との提案が と言われても咄嗟には思いつかず、ぐるりと辺りを見回し目に着いたそれは 乗るもの全てが阿鼻叫喚となる絶叫マシン 流石にこれはまずいだろうか そう思いながらも、鳥谷ソレを指差して見れば 小鴨の表情が珍しく解りやすいほどに強張った 怖いのだろうか、それでも乗ると言ってくれる小鴨 鳥谷の手を取ると、ソレに向かって歩き始める 「小鴨、お前緊張しすぎ。無理しなくていいんだぞ」 「だ、大丈夫です。一思いに行ってください!」 覚悟は決めた、と前を見据える小鴨の様に つい鳥谷は声を抑える事も忘れ吹く様に笑い出してしまった 「鳥谷君!」 「わ、悪い。お前があんまりにも深刻そうな顔してるから」 やめる、と一言行ってしまえばいいものを ソレを言わないのは矢張り、小鴨の控えめ過ぎる性格故なのだろう 本当に、困ったものだ 肩を揺らすと鳥谷は係員を呼び、小鴨を連れソレを降りていた 「……乗らなくても良かったんですか?」 手を繋いだまま数歩先を歩く鳥谷へ、小鴨が申し訳なさげに言って向ければ 僅かに首を振り向かせ、鳥谷は口元に笑みを浮かべる 「ガキの頃、こういうのに母親と乗って涙と涎が飛んできたことがあってな」 「鳥谷君のお母さん、ですか?」 「そ。やめとけば良いのに乗るって言い張ってな。あん時は流石に参った」 そうなって貰っては困るからとからかう様に逝ってやり 鳥谷は別のものに乗りにと改めて歩き出す 「これなら、大丈夫だろ」 脚を止めたのは、観覧車の前 高い所から景色を見るのも悪くないだろうと、小鴨を連れゴンドラへ 段々と高く上がっていくゴンドラ その高さが増せば増すほど、小鴨の表情が強張っていく 「……お前、もしかして高いトコが根本的に嫌いだったり?」 指摘してやれば、小鴨は顔を引き攣らせたまま そんな事はないと、どうしてか無理して笑みを浮かべる 浮かべてはいるのだが、引き攣っているそれを交じり何とも複雑な顔 どうしてそう人にばかり気を遣うのだろう 仕方がないと苦笑を浮かべながら、鳥谷は小鴨へと外見てみる様に言って向ける 「景色、キレイだから。見てみな」 怖く無いからと宥めてやれば、小鴨は怖々顔を上げる 眼下に広がって見える街の景色 見えたソレに、小鴨は珍しく歓喜に声を上げる 「凄く綺麗です!鳥谷君」 「そうだな」 「今日、来てよかったですね」 先までの緊張がまるで嘘の様に 楽しげに笑ってくれるその顔を見、鳥谷は安堵する 「そ、だな」 短くそれだけを返し、丁度そこで観覧車は一周 漸く地面に脚が付き、小鴨がホッと息をはいた さて次はどれに乗ろうか 小鴨でも乗れるものを、と探しているうちに ポトリ行ってき、水がはじけた その冷たさに上を見上げてみれば、空は薄暗く雨が突然に降り始める 取り敢えずは雨宿りを、と近くあった東屋へと駆け込んでいた 「行き成り降ってきたな」 すっかり濡れてしまい、額に張り付いてしまった前髪を鳥谷は邪魔そうに掻き上げる 見れば小鴨もずぶ濡れで このままでは風邪を引いてしまうかもしれないと 鳥谷は小鴨にここに居る様言って聞かせ、土産が売られているショップへと走る そこで適当なタオルとビニール傘を購入し 鳥谷は小鴨の元へ 「取り敢えず拭いとけ」 風邪を引くから、と頭にかぶせてやり拭いてやる 小鴨の水けをあらかた拭いてやり、鳥谷は自分も適当に 「鳥谷!小鴨ちゃん!」 雨宿りの最中、別のペアと遭遇した 遊園地を楽しんでいる様で、全身いグッズやらを付けている 「……お前ら、満喫しまくってんな」 冷静に見てみればその恰好は随分と浮かれていて 突っ込んでやる気力も段々と失せていった そんな些細なやり取りを暫く続けていると どうやら通り雨だったらしいそれが止んだ 止むなり別のペアはまたアトラクションへと走り 自分達はさてどうしたものかと、鳥谷は顎に手を添え考え始める 前へ |次へ |
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