《MUMEI》
平和と私
慶応2年5月−−…

池田屋事件、禁門の変が終わり。
私に待っていたのは、何もないただ普通の“平和”のみ。
私は今日もまた、何か事件はないかと1人ぼんやりと野原で虚ろいでいた。

「あっ、いたいた。」

ふと、そんな私に声を掛ける馬鹿が1人。

“陰村 香江”

私の唯一の親友だ。

「もうまたこんな所にいて…」

香江はそう言うと、トコトコと私に駆け寄る。

「捜してたんだよ、綺羅ちゃん。」

“秋沢 綺羅”

それが私の名前だ。

「何か用?」

私は空を見上げながら香江に問う。
一面真っ青なその空は、空気だけでも私の心を満たしてくれる。
それがたまらなく良くて、たまらなく大好きだった。

「“何か用?”じゃないでしょう綺羅ちゃん。今ね桂さんが呼んでて‥」
「しっ。」

何かに感づいた私は、綺羅ちゃんごとバッと伏せる。

「ど…どうしたの綺羅ちゃん。」

私は聞こえないよう香江の口を塞ぐ。

「しっ!静かにして。」

私と香江の鼓動だけが聞こえる。
バタバタと鳥の羽ばたく音も聞こえたが。
それと同時に浅葱色の羽織を着た男達も息を切らせ走ってきた。

「くそ、どこ行った。」
「まだ近くにいるはずだ…捜せ!」

そうしてそのまま男達は何処かへ行った。

「綺羅ちゃんまた誰か斬ったの?」

私から解放された香江が思わず問う。

「うん、ちょっとね…」
「あんまり無理しちゃ駄目だよ?このご時世けっこう危険なんだから…」

香江が私を心配したのか、静かに頭を撫でる。

「うん…ありがとう。」

私は静かにそう言った。

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