《MUMEI》

「悪いね、河野と交換してもらっちゃって」

「いや、そんなことないっすよ、店長」

ここは俺のバイト先の、男子更衣室。

あのメールのやり取りの後、俺はカフェに大急ぎで直行して。

客の接待とレジと、それから掃除をした。

あっと言う間に時間も過ぎ、やっとのことでバイトも終わって、時計を見ればもう10時の針はとっくに過ぎていた。

「でも来てくれてほんっと助かったぜ、

一人より大勢って言うしな!」

そう言ってガハハと大口を開けて笑っているのはこのカフェを切り盛りしている今年40歳のオジサンーもとい店長だ。

優しくて明るくて―根気も男気もあって。
たよりがいのあるこの人を俺は尊敬している。

小さなカフェだけど、このカフェが繁盛しているのは、そんな店長の性格があってこそだと思う。

もうほとんど着替え終わり、現場で着る紺色のエプロンをたたんでいると、不意に店長が「そういえば」と口を挟んだ。

「最近ここらへん、チンピラ多いらしいかんなー。
なんでもカツアゲ被害が多発してるとかなんとか…

まあ、気ぃつけとけ」

「チンピラ?」

「あー、俺もよくわかんねえんだけどな…

まあ、貧相でビンボーそうな格好してりゃ絡まれないだろ!」

そう言って店長はまたガハハと大口を開けて笑うと、手をヒラヒラと振りながら「あばよ」といって更衣室を出ていった。


店長も去り、シンと静まり返った更衣室に一人残されて。

「チンピラ…」

もう一度同じ言葉を繰り返した。

まあまさか絡まれはしないだろう、

俺は軽い気持ちでそう思いつつ、鞄をひっぱると更衣室を出ていった。

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