《MUMEI》 2「よく似あっているな」 相手の満足げな声が静けさしかなかった部屋に響き渡っていた 監禁されたまま何をするでもない田所が仕方なくテレビを見ていると 相手・岩合 千尋が戻ってくるなり田所を姿見の前へと立たせる 何事かと何事かと怪訝な顔を向けてみれば 岩合がその手に何かを持っている事に気付いた 一体何を持っているのか つい気になり、まじまじと眺め見てみればそれは女性もののワンピース ソレを田所へと宛がい、岩合は満足げな声を漏らしていたという訳だ この男は結局の処何がしたいのだろう その意図が解らず更に怪訝な顔だ 「今から出かける。早く着替えろ」 何処に行くという訳でもなく唯それだけで 田所は半ば強制的にソレへと着替えさせられ、そのまま連れ出された 車へと押し込められたかと思えばそのまま走り出す 本当に何処へ行くつもりなのか 一向に何を言う気配もない岩合に、田所は更に怪訝な表情を向けた 「何か、俺の顔に付いているか?」 田所の視線に気付いた岩合が僅かに田所を横目見る 自身の行動に脈絡がなさすぎる事に気付いていない様で だがソレを田所は指摘してやる事はしなかった それから暫く互いに無言で、漸く到着したソコは 此処が日本である事を忘れてしまいそうな程豪華な邸 その煌びやかさに、田所は顔を引き攣らせる 「……で?此処で今日何があるんだよ?」 そこで漸く、田所は自身が女の様な恰好させられているその理由を問うた 自分など場違いもいい処だと車へとまた乗りこんでしまいそうになった、その直後 「お帰りなさいませ。千尋坊ちゃま」 出迎えに、老婆が一人現れる 深々頭を垂れてくる老婆へ、岩合はソレを制してやり 「チズ婆。暫くだったが、息災か?」 「ええ。この通り。今日は坊ちゃまが女性を連れてこられると聞いて朝から落ち着きませんでしたが」 チズの視線が田所の方へと向けられる よもや連れ帰ってきたのが男だったなどと 迂闊に伝えてしまえばこの老婆は卒倒してしまうのではないだろうか そう考えてしまえば流石の田所も公に暴露できなかった 「随分と大人しいな」 何をいう訳でもなく唯、傍らに在る田所へ 岩合は口元に僅かな笑みを浮かべ顔を覗き込んでくる 向けられる視線 その、何もかも暴かれる様な岩合の目の色が田所はどうにも苦手だった あからさまに視線を逸らしてしまえば岩合は肩を揺らし チズに案内されるがまま屋敷内を奥へと進んでいく どこもかしこも豪華な装飾 金の無駄遣いでしかない、と心中毒づいたと同時 目的の部屋に到着したのか岩合がその戸の前で一度脚を止めた 「俺から、離れるなよ」 「は?」 この奥に何があるのか 分かる筈もない田所は怪訝な顔をして向けたが 詳しく語られる事はなく、戸は重々しく開いていく そこから見えたのは大勢の人間が着飾り、賑やかに執り行われている宴の席 田所らが入れば、皆の視線が一斉に集まった つい戦いてしまいそうになるの田所の手を掬う様に取ると 岩合は部屋の奥へと気にせず進んでいく 「千尋。その方が田所のお嬢さんか?」 上座に座っていた老人が岩合へと顔を上げ その傍らの田所へと視線を向けた 瞬間細められた視線 全てを見透かそうとするその眼は岩合によく似ていて 田所はその視線から逃げる様に、岩合の背後へと身を隠す 「怖がらせてしもうたか。大丈夫、取って食ったりはせんよ」 老人は気さくに話しているつもりなのだろうが、その実そうではない 全てを支配し、ソレを当然だと周囲に言わしめる様な声 絶対的支配者たるそれは、岩合の上を行っていた 「……俺、帰りたい」 どうにも居心地が悪く、田所は岩合の服の裾を引く その田所の様に、岩合は溜息を吐き 手を引くとバルコニーへと出て行った 「少し、顔色が悪いな。具合は?」 そこにあった椅子へと田所を座らせ顔を覗き込む 血の気が引き、青白くなってしまっているのは精神的疲労故か 帰って休ませてやった方がいいのかもしれない 田所の様にそう判断した岩合はふわり田所を横抱きに バルコニーを出ようとしたその時 「千尋。爺さんが呼んでる」 岩合によく似た人物が呼びに出てきた 前へ |次へ |
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