《MUMEI》
闇の見え隠れ 〜愛鈴〜
暫くは何事も無い平穏な日々が続いた。
5月21日。
今日は、私が歌手デビューした日。
3年前の今日、あの華やかな舞台に初めて立ったのだ。
みんなはそれを知っているらしく、祝福の言葉をかけてくれる。
どこかで調べたのだろうか?
しかし、そんなみんなとは裏腹に、私の心は淀んでいた。
私は学校の屋上で1人佇んでいた・・・と思っていたのは私だけだったようだ。
見覚えのある横顔。
「た・・・橘君・・・。」
「アンタ、ここに何しに来た? みんなの所、行けば? チヤホヤして貰えるじゃん」
「・・・」
「・・・」
「・・・・・・やだよ・・・もう・・・こんなの・・・」
この人の前で泣くつもりじゃなかったのに・・・
あれが頭の中に浮かんできて、自然と涙がポロポロと溢れた。
「・・・! な、何で泣いてんだよ・・・」
「芸能人になったって・・・何も・・・うぅ・・・良いこと無い・・・う・・・」
あんな思いは二度としたくないのだ。
だから、アイドルとか、みんなの注目の的になるようなことは嫌なのだ。
でも・・・やらなくちゃ。
「さっきは・・・アンタの気持ち考えずに言って悪かった・・・」
「・・・ううん・・・いいの、別に。橘君、悪く無いし」
頑張って作り笑いを浮かべてみる。多分、上手く笑えてない。
顔が引き攣っているだろう。
「詳しいことは聞かないけど・・・その・・・」
「・・・?」
「辛かったら・・・言えよ・・・」
「・・・! ・・・うん・・・///」
橘君の意外な優しい言葉に、顔が火照っていくのが分かった。

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