《MUMEI》
夕季の蘇る過去 〜父子家庭〜
ビシッ・・・バシッ・・・
「あ・・・あなた・・・やめて!」
「ふざけるな! お前の教育が悪いんだ!」
今日も父さんが母さんを叩く音と、怒号、母さんの叫び声が聞こえる。
「父さん・・・もうやめてよ」
「お前は勉強を頑張っている。でも、いつも1位じゃないのは・・・」
「違うよ・・・。俺が悪いんだ」
「お前は悪く無い。こいつの教育が悪いんだ!」
いつも些細なことで怒っては母さんに暴力を加えている。
そんなこと夕季が望んでいるはずが無かった。
ただ、幸せに暮らしたいだけ。
なのに、それはきっと叶わない。

ある日の休日、母さんがフラーっと階段を上って行くのが見えた。
気になって、こっそり後をついて行く。
そこはマンションの屋上だった。
普段、人がほとんど出入りすることは無い。
「母さん?」
「え?あ!・・・夕季・・・」
「何してるの?」
「ごめんね、夕季。私、もう耐えられないの。高校に行くだけのお金はあるから。あと・・・よろしくね・・・」
「母さん! 行かないで!」
「もう、辛い思いはさせたくないわ。バイバイ。先に待ってるから・・・」
母さんが居ない方が辛い。そう言おうとした瞬間、
母さんの姿は視界から消えていた。
「母さん!」
無我夢中で階段を駆け下り、母さんの元へ走る。
母さんの周りは無惨なことになっていた。
手首に触れてみる。脈は無い。
当たり前だ。11階から落ちて助かるわけが無い。
病院に行ったが、当然ダメだった。
夕季は父さんを恨んでいる。憎い。当然だろう。

家に帰ると、封筒が届いていた。
それは、高校、第一志望合格の知らせだった。
父さんは喜んでくれた。夕季も、もちろん嬉しさを感じた。



・・・母さんは、見ててくれてるかな?

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