《MUMEI》

「あ、あの、鳥谷君」
「ん?」
考え込んでいると傍らから小鴨の控えめな声
どうしたのかと小鴨へと向いて直ってやれば
「私も、おみやげ屋さん、見たいです」
主張してくる声も何とも控えめなソレで
鳥谷はつい肩を揺らすと歩くことを始め、そして土産物屋へ
「何がいい?」
好きなものを買ってやると、様々並ぶ見上げを前に言ってやれば
小鴨は嬉しそうな顔を浮かべ
「これが、いいです」
控えめに選んだそれは手の平に乗る程のクマの人形
それだけで良いのかを問うてやれば、小鴨は暫く考える様な素振りを見せ
そしてもう一つ、同じクマ手に取って
「……じゃ、もう一つ、いいですか?」
可愛らしい小さなクマと、少し大きめなクマ
その二つをと手に持ち、小鴨は表情を綻ばせる
まるで自分と鳥谷の様だ、と
口にしてしまえば笑われてしまいそうな事を考え、一人顔を赤くした
「どうかしたか?」
小鴨の様を見ていた鳥谷が顔を覗き込み
何でもないのだと首を何度も振る小鴨へ
これ以上聞いてやるのもかわいそうだと、鳥谷は追及する事はせずに置いた
取り敢えずはクマの生産を済ませ店を後にした、丁度どのとき
鳥谷の携帯着信音が鳴り響く
サブディスプレイには友人の名前
何事かと出てみれば
『な、皆でお化け屋敷行かねぇ!?』
との誘いが
また何を思い立ったのかと思いはしたものの
絶叫マシンよりはいいかもしれないと
取り敢えず小鴨にはお化け屋敷という旨は伏せ集合場所へ
「と、鳥谷君、ここは……」
そこに到着するなり小鴨の表情がこわばった
ああ、やっぱり
大方怖がるだろうと思って居たが案の定
見るからに顔を青くし、立ち尽くしてしまっている
嫌なら入らなくてもいいと耳元で言ってやれば
「だ、大丈夫、です。は、入れます」
何故か入る決意を決めていた
無理をしなくてもいいのに
変な処で意地を張って見せると鳥谷は肩を揺らし
小鴨の手を取ってやった
「じゃ、皆。入るぞ!」
友人のその声を合図に皆が中へ
入るなり広がるおどろおどろしい雰囲気
鳥谷の手を掴む小鴨の手を握る力が強くなる
「こ、怖くない。怖くなんて、ないんです」
充分に怖がっている
鳥谷はやれやれ苦笑を浮かべると小鴨を徐に引き寄せ
周りを見なくても済む様に胸元に顔を押し付けてやった
「鳥谷君……」
「さっさと抜けるぞ。付いて来いよ」
「は、はい……」
鳥谷を間近に感じ安堵したのか
返ってくる声は少しばかり落ち着きを取り戻していた
他の面々よりも数歩先を歩き、一足早くにソコを出れば
小鴨が派手息を吐いていた
「大丈夫か?」
顔を覗き込んでやった途端
小鴨は安堵に力が抜けてしまったのか、その場へと座り込んでしまう
「こ、腰が、抜けちゃいました……」
立てなくなってしまったとの小鴨に、周りは皆大丈夫かを問う
鳥谷はやれやれと肩を落とすと、小鴨を背に負うた
「と、鳥谷君!?」
行き成りのソレに小鴨は驚き
だがソレに構う事もせず、鳥谷はまた溜息に肩を落とす
「俺ら、その辺で適当に休むわ。お前ら、回って来てもいいぞ」
「いいのか?トリ」
「こっちはこっちで勝手にやるから。気にすんな」
それだけ伝え、鳥谷は後ろ手に手を振って見せるとそのまま歩き出した
何処に行くのかを問うてくる小鴨へ鳥谷は暫く歩くと手近あった長椅子へと小鴨を降ろしてやる
「何か、飲むモン買ってくる」
待ってろ、と頭の上で手を弾ませてやり、鳥谷は近くの店へ
飲料と、一緒に売ってあった菓子を購入し小鴨の元へと戻った
そこに、小鴨は変わらず座っていた
いたのだが
「ね、君一人?良かったら俺らと回らない?」
何故か安っぽいナンパにあっていた
小鴨はどうすればいいのかが解らず動揺するばかりで
見兼ねた鳥谷がその連中に近づいていく
「ソイツ、一人じゃないんだけど」
よく冷えた飲料を小鴨に言い寄るその中の一人の首筋へ
驚いたらしいその相手が鳥谷へと向いて直り睨む様な視線
だがそれ以上に凶悪そうなソレで鳥谷は相手を見ていたらしく
一瞬、たじろいだかと思えば、逃げる様に走り去っていった
「……逃げるくらいならナンパなんてすんなっての」
若干の苛立ちを覚え、鳥谷は眉間に皺を寄せる

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