《MUMEI》

相対した途端、岩合の表情があからさまに強張る
一体、誰なのだろう
ついその人物を凝視してしまえば
「初めまして、千尋の可愛い人。俺はコイツの兄貴の隆弘。ヨロシク」
聞いてもいないのに勝手に自己紹介を始める
差し出される手
果たしてこの手は取ってもいいものかと躊躇していると
「行くぞ、夏生」
ソレを遮る様に手を引かれた
瞬間、兄・隆弘の表情が険しいソレに代わり
だがすぐに田所へと向け、にこやかな笑みを浮かべ手を振って見せた
この男の笑顔は何か怖い気がする
田所は視線を逸らし、岩合後に付いて室内へ
「何の用だ?爺さん」
まだ何か用があるのか、老人の処まで戻ってみれば
老人は唐突に田所の腕を取った
「なっ――!?」
突然ソレに田所は驚き、腕を振り払おうと試みる
「……よく似ているな。お前は」
顎を強く捕えられ、身動きが取れずにいると
岩合の手が富所の身体を改めて抱き返した
「結局、何の用だ?」
「いや。矢張りお前も、儂と趣味が似ていると思っただけだ」
引き止めて済まなかったと老人は田所らへと手を振る
それに一瞥をくれてやり、岩合は田所を引き連れその場を後に
帰る道中、矢張り互いに交わす言葉は無く
景色でも見ていようかと視線を外へと向けてみれば
車が何故か脇道へと入っている事に気付く
何処に行くのだろう
岩合の表情からは何も読み取れず、問うてみても返答はない
仕方なく黙って乗っていると、突然車が路肩へと停まった
「夏生」
低いその声で名前をよばれ、田所が反射的に顔を上げれば
唇を、重ねられる
岩合から与えられるソレに、全身が甘い疼きを思い出し
田所は身を捩りながら何とか岩合の身体を押し退けようと押しやった
「……無駄だ」
その抵抗をものともせず、田所の両手首を掴み上げると
シートへと押しつけ身体を簡単に高速する
岩合が今から何を使用著しているのか、ソレを田所は察し
何とか自由になる両脚をばたつかせ、改めて抵抗を試みた
「嫌だ……。こんな、トコ、嫌だって……!!」
事に及ぶこと自体嫌悪ばかりを感じるというのに
何時人の目に晒されてしまうかも分からないこんな往来でできる筈もない、と
訴える声は情けなくも涙で震えてしまう
だがその訴えも虚しく、岩合の手が田所の敏感な敏感な場所へ
その手に慣らされてしまった其処はすぐに反応を示し
それが田所の羞恥を煽る
「……車、シートが汚れる」
「もう、限界か?」
「だって、お前が――」
煽るからいけない
せめて反論してやろうと口を開くが、出てくるのは甘い嬌声ばかりで
耳を塞いでしまいたいと思うのに、手は未だ高速されたまま
自分のその声が嫌でも耳に入る
「嫌、だ。嫌――っ!!」
何度目かの、拒絶の言葉
だが田所は耐えきれず、熱を岩合の手の平へと吐き出してしまっていた
「ちゃんと、終わったな
いつの間にか其処に宛がわれていたハンカチ
全てを受けきれなかったらしく、ポトリと残滓がシートを汚していく
自分の、ソレ
今まで味わった事のない羞恥に
田所はいっそ死んでしまいたいと顔を覆い隠した
何故、どうして自分ばかりがこんな目に
考えてみた処で分かる筈もなく、田所は耐えきれず車外へと飛び出してしまう
突然の田所のソレに岩合は止める事が出来なかった様で
掴んで止めようとしたその手をすり抜け、その場から走り去っていた
逃げなければ、今すぐに、此処から
「……お兄ちゃん?」
乱れたままのドレスを整える事もすっかり忘れ
そのまま通りをひた走っていると、途中声を掛けられた
聞いた声に脚を止めてみればソコに
行方を眩ましたはずの妹がいた
「な、何その恰好!一体どうしたの!?」
散々なその有様の田所に周りからの視線が集中する
このままここで問答するわけにもいかないと妹は田所の腕を取り
歩くことを始めた
暫く歩き、到着したのはとあるアパート
其処の一室に招き入れられる
「これ、彼ので悪いけど」
どうやら同居しているらしい恋人のシャツとジーンズを出してくれて
勝手に拝借しても良いものか若干気が引けたが
このままで居るよりはと袖を通した
「じゃ、俺行くな」
着るなりすぐ身を翻す田所

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