《MUMEI》
過去の断片
少年は言った。




「人は人を殺してはいけない。例えそれが事故であっても」



少女は望んだ。



「教えて下さい。どうして死ななければならなかったのかを。
私の望みが叶うなら−−−−どうか、父に罰を与えて下さい」





−−−−−−−−−−−



****年**月**日

深夜**時

自動車事故発生、助手席の女性は即死、運転手は全身を強く打っているが命に別状なかった。

不運にも、突っ込んだガードレールの向こう側にいた2人の夫婦を巻き込んだ。
この夫婦は友人の息子の結婚の前祝いの為に東京に来ていた。そこで起きた不幸。
歩行中に突然横から来た一台の車に命を奪われた。
おそらく本人達は何が起きたのか解らないままの死だっただろう。


計3名もの死者が出たこの事故の最大の焦点は、この運転手が酒に酔っていたかどうかだった。


酒は飲んだが酔うほどの量ではなかった、それに飲んでから随分と時間が経っていたので大丈夫だと思った。
運転手本人はこう言った。


実際に検査してもアルコールが血中から採取されることはなかった。
事故の原因は飲酒とは無関係ということになった。


事故に巻き込まれた夫婦には当時17歳の少年がいた。
彼はこう言った。

「人は人を殺してはいけない。例えそれが事故であっても」

そしてこう続けた。

「人は人を殺してはいけない。人は人を殺させてはいけない。人は死んではいけない」


この言葉は誰に言ったのか?
ただ運転手に言っただけではない。
彼は世間に言った。

だが彼の言葉に気を止める人はいなかった。
何を言っているんだろうこの少年は、皆そう思った。


運転手にも6歳の娘がいた。
彼女はこう言った。

「お父さんは悪くない。お母さんが死んじゃったんだよ。事故を起こしたくて起こしたんじゃないんだから。
だからお父さんを責めないで」

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