《MUMEI》

「ロンにはあげないよ。絶対」
ぺろりとロンへと舌を出して向けるメリー
そのまま斎藤へと視線を向けながら
「あの子、悪夢のいい匂いがするでしょ。皆、もっともっと欲しいよね」
羊たちへと何かを唆そうとしていた
嫌な予感がする
僅かに向けられた視線に斎藤が気付けば
その脚元に、その黒い羊たちが群れ始める
「――そこから離れろ!」
ロンの怒鳴る様な声をすぐ横で聞きながらも
斎藤はなぜか身動きが取れずに、等々全身をその黒に覆われてしまった
「嫌、何これ!嫌ぁ!!」
斎藤の叫び声が聞こえたかと思えば、その姿は瞬間に消えてしまい
一体何処へやったのか
ロンは視線でソレをメリーへと問うていた
「あの子にはもっともっと悪夢を見てもらわないといけないんだ」
だからそのための場所へ送っただけだとメリー
それ以上は何を話す事もメリーはせず
ロンへと嘲る様な笑みを浮かべて見せ、そのまま姿を消していた
「……アイツがどこに行ったか、解るか?」
独り言の様に問うてみたのは、先に生まれたあの羊
羊はふるふると身を震わせ、空を徐に仰ぎ見る
「……空、か」
同じく空を仰ぎ見たロンがまた呟き
そしてそのまま土を蹴りつけふわり宙に浮く
「……どこまでも手のかかる奴だな」
まるで地に立つときと同じ様に何もないソコに直立し
ロンは辺りに斎藤の気配が何かを探る
その中に強い悪夢のソレを感じ、ロンはそちらへと顔を上げた
これは斎藤の中にある悪夢のそれか
ソレともメリーの黒い羊か
どちらにしてもこのままにはしては置けない、と
気配をたどりそこへと向かう
「……ロン」
到着したそこにはメリーの姿
だが一緒に居た筈の斎藤の姿はなく
ロンはメリーにその所在をまた問うた
「……あの子なら、多分あそこだ」
何故か返答がはっきりせず
どうしてか顔を引き攣らせながら指差したその先には
黒い、何かがあった
あれは一体何なのか、近く寄ろうとした瞬間
その黒い何かは歪に姿を変え始める
ぐにゃりぐにゃりとまるで定まらないその姿
暫く眺めていると、漸くその姿は定まった様で
見る事が出来る様になったそれは
巨大すぎる、獏だった
「……一体、何をどうしたらこうなる?」
その大きさに驚きを通り越しロンは呆れ、メリーの方を見やれば
メリーは口元を歪に歪ませ
「あの子の悪夢を、全部食べたから」
何かを含ませるように呟いた
その何かをロンは直ぐに察したようで
獏の方を、表情を僅かに強張らせ見やる
「……アイツごと喰ったという訳か」
メリーからの返答はない
ソレを応と捕えたロンは軽く舌を打ち
素早く身を翻していた
何をするつもりか、とのメリーへ、答えて返す事をロンはせず
獏の口を無理矢理にこじ開けると自らその中へ
「……馬鹿な事、するね」
嘲る様なメリーの声を傍らに聞き
ロンは睨む様にメリーへと一瞥を向けると
そのまま獏の口の中へと入っていったのだった……

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