《MUMEI》

「……?」

眉間にシワを寄せ、何かを物思い始めた。

「失礼ですが、何処かでお会いしましたでしょうか。」

「此方こそ、名乗りもせずに失礼しました。驚いてしまって、お許し願います。」

「そんなことはどうでも良いのです。何故…。」

ファーストコンタクトは相当な失敗に終わった様だ。

「何故、私の名前を知っている?」

柊から発せられる私への不信感は嫌という程に全身に突き刺さっていた。

それも、異常な程の。

この異常な身構え方は、私は秘密を抱えています、と言っているようなものだな。

「……私はしがない新聞記者をやっています。その反応だと、此処に辿り着いたのは私が初めての様だ。」

無人のエレベーターは自動で閉まり、上の階へ上って行った。

「用件は。」

「少し、お話しませんか?そうすれば大人しく帰ります。もしも無理なら上の階の柊茉莉乃さんに伺うまでですので。」

半分は脅しだが表情を見る限り、かなり有効だった様で少し歪んだ。

だが、そんな表情こっちは何万回と見てきたので、同情など知るものか、という具合だ。

湊川はこの空気に入りずらいのか、先程から動く気配はない。

まだまだガキだ。

「…判りました。」

「察しが良くて助かります。」

記者にとって、相手が皮肉の時の此方の表情は、満面の笑顔、と決まっている。

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