《MUMEI》
束の間の幸せ
私と夕季は教室に戻った。
丁度お昼休みが始まった所のようだ。
「ごはん、食べよっか。あ、でも、ここはイヤ・・・。」
「分かってるよ」
夕季は私の手を引いて再び屋上にやって来た。
「やっぱりここだよな」
「そうだね」
私たちはお弁当を広げ、食べ始めた。
「ねぇ、夕季?」
「ん?」
「もし、夕季が辛い目に遭ったら、私から離れてね。」
「・・・いや」
「え? ・・・でも・・・」
「でも、じゃない。俺がやりたいようにする」
「・・・それでいいの? 被害者は私だけでいいんだよ?」
私は・・・小さい頃から人に迷惑をかけるのが嫌いだった。
そのせいか、自分で抱え込んだ問題は、自分だけで解決しようとする。
昔からストレスを溜めやすい人間だった。
でも、働いて、お母さんが喜んでいるのを見れば、そんなのは吹っ飛んだ。
何でだろう? 夕季には絶対に、何があっても迷惑はかけたくない、そう思った。
夕季が特別なのだろうか? ・・・そうなのかも知れない。
「俺がやりたいようにたるんだから、自己責任。心配すんな」
夕季はそう言うと、フッと笑った。
この時、私は気付いてしまった。
夕季と離れたくない。好きになってしまったのだ。
でも、夕季はそう思っていないだろう。
あの優しさはきっと全部・・・演技だから。
騒ぎが静まれば私から離れていくのだろう。
離れたくない・・・一緒にいたい・・・
私の気持ちは届かないのだろうか?
片想いで終わる恋も、それはそれでいいと思った。
私にとっては“初恋”だった。
でも、それが叶っても叶わなくても多分後悔しないだろう。
「ありがとう・・・」

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