《MUMEI》
願い
病院から退院する日になっても、父は帰って来なかった。

どうして帰って来ないのお父さん、どこかで寄り道しているの。早く帰って来てよ。
そう思いながら私は家で待っていた。

父は病院から出た後、家に真っすぐ帰らずに、ある場所へと向かっていた。


−−私は父の気持ちを理解しているつもりでいた。
辛いことがあったけど、また一緒に頑張ろうねって、私は恨んでないよ、お母さんが死んでしまったけどそれはお父さんのせいじゃないよ、私はお父さんの味方だからね。だから早く帰って来て。



父が帰ってくることはなかった。
父は自ら命を絶ったのだ。


私はその時願った。

「教えて下さい。どうして死ななければならなかったのかを。
私の望みが叶うなら−−−−どうか、父に罰を与えて下さい」


私はどうして父が死なければならないのかわからなかった………どうしてなの。
お父さんは許されたはずなんじゃないの?
許してよ、お父さんを許して………


父は耐えられなかったのだ。事故にあった自分以外の人は死んでいるのに、自分だけこれから生きていくことに。

私は父に生きていって欲しかった。お父さんは自分自身を許せなかったんだ。
もし時間が戻せるのなら、お父さんが自分自身を許せるように、どうか………お父さんに罰を与えて下さい。

そう願った。

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