《MUMEI》 3其処は何もない、酷く深いどこかだった 自身の姿を見る事さえままならないそこで一人 斎藤は身動きを取る事もせずそこ蹲る 自分は一体どうなってしまったのだろうと 整理しきれない頭で何とか考える 最初に、此処は一体何処なのか その手掛かりはないかと辺りを見回すが、見えるのは深い闇ばかり 何も見えないのならば何を得る事も出来ないと、落胆に肩を落とす斎藤 どうすればいいのか次にソレを感が始めた斎藤の膝の上に やんわりとした重みが掛る 何なのだろうと膝上の重みのソレの触れてみた 「……これ、羊、かな」 触れてみれば安心できる柔らかな完食 そのうちに段々と落ち着きを取り戻し その羊らしきソレを手探りで抱き上げてやりながら 「ね、アンタは、ロンの羊?」 問うてみる 気配で羊が身を震わせたのが解ったが、それはどちらの意か 分かる筈もなく途方に暮れていると、不意に服の裾が引かれた こちらに来いと言わんばかりに引かれ 斎藤は自身の指先でさえ見えないほどの暗闇の中歩くことを始める どこまで進んでも目の前に広がるのは深い闇 この先に一体何があるのだろう このままここに立ち止まってしまっても仕方がない、と羊に引かれるまま斎藤は更に歩く 進んで行くその先に漸く何かが見え、近く寄ってみれば 其処には大量の羊がどうしてか群れを成していた メリーは夢になりたいと言っていた そのために自分の羊が欲しいのだ、とも 「夢になったら、何があるの?」 分かる筈もなく、斎藤が首を傾げてしまえば羊がまた服の裾を引く 何かと羊へと視線を落としてみればそこに 壊れたおもちゃばかりが散乱していた 「……これ、何?」 膝を折り、一つ取ってみれば それは弾けるように消え、その後に何かが見え始める それは、誰かが、何かが見た(夢) 見える全てはその欠片で 斎藤はどうしてか気に掛り、それに次から次へと次へと触れていった だがそれも見えてくるのはなぜか悲しげなモノばかり 見進めていくうちに居た堪れなくなった斎藤 無意識に涙が頬を伝い始めた 「……何を、泣いている?」 不意にロンの声が聞こえてきた様な気がして斎藤はハッと顔を上げた だが辺りを見回して見てもソコに居るのは羊ばかりでその姿はない 気の所為かと改めて羊を抱き締めてやれば だがその抱き心地がそれまでとはどうしてか違っていた 暗がり故にそれがよく見えず、近くまで顔を寄せてみる 「無事だな」 ロンの顔が間近 息が触れてしまいそうな程のその近さに、斎藤は驚くより先に安堵を覚え 縋り付いてしまい、本格的に泣き出してしまっていた ロンは何を言う事もせず、斎藤が泣き止むまで宥める様にその髪を梳く 暫くして漸く落ち着いたらしい斎藤 ロンの方を見やり、今更に何故ここに居るのかを問うた 「……私が伊達や酔狂でここに居るとでも?」 やれやれと肩を落とすロン これ以上此処で問答していても仕方がない、と 斎藤の身体を肩へと担ぎ上げる 落とされては敵わない、とそこで大人しくしているしか出来ない斎藤 何処かへと歩き始めたロンへ何処に行くのかを問うた 「……さぁな」 「ここって、夢の中なの?」 更に問うてやれば、それは肯定するかの様にロンは頷く そして徐に辺りを見回しながら 「あの子供らしい、馬鹿けた夢だ」 吐き捨てる様な呟き 確かに何もかもが混ざり合った、よく分からない世界 このあやふやなモノの中に、あの子供は何を見出すのだろうと 斎藤が何に触れるつもりもなく手を伸ばしてみれば その指先が、何か柔らかなものに触れた 「何、これ……」 両手で抱ききれないソレに これは一体何なのかと見やれば、その全貌が明らかになる 黒く、巨大な羊 全てを覆いつくしてしまいそうな程巨大なソレに 斎藤は戦き、ロンは派手に舌を打った 「今は逃げるぞ!捕まっていろ!!」 ロンの、怒鳴る声 一体、目の前で何が起こっているのだろう 状況理解が追い付かず、唯ソコに立ち尽くすばかりの斎藤 動く様子のない斎藤を、ロンは有無を言わさず肩の上へと担ぎ上げる 前へ |次へ |
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