《MUMEI》
強い心
「何で・・・私なんか助けても・・・意味ないよ?」
その時、私の頬に一粒の水が落ちてきた。
こんな晴天の中、雨では無いだろう。
ということは、私が・・・泣いてるの?
いや・・・それは違う。
涙を流しているのは、夕季だった。
「夕季、泣いてるの?」
「愛鈴・・・忘れたのか?」
「え?」
「あの時“辛いときは言え”って言ったのを」
「!」
「飛び降りろなんて・・・俺・・・そんなこと言ってない・・・」
私が今死ぬことで、夕季の心を痛め付けるということに気がついた。
気がつけば私も泣いていた。
「夕季・・・ごめんね。・・・あの・・・引き上げてくれる?」
「愛鈴・・・ありがとう。生きててくれて」
私は夕季に引き上げてもらい、再び屋上に立った。
久々の地面の感触に、安心する自分がいた。
「愛鈴・・・」
私は夕季の腕の中にいた。あの記憶が蘇る。
「夕季・・・?」
「・・・好きだ」
「え・・・? ・・・ほ、ホントに?」
「冗談でこんなこと言うか?」
「よ、良かった・・・。夕季・・・!」
「おわっ!」
喜びの余り、夕季に全体重をかけてしまった。
そのまま後ろへ倒れ込む夕季に、私は乗っかってしまった。
「・・・ハハッ・・・ククク・・・。」
「な、何笑ってるの!?」
「愛鈴、こういうのが好き?」
「ち、違う!」
私は慌ててそこから退いた。
「だって、押し倒したのは・・・ククッ・・・愛鈴でしょ?」
「押し倒したんじゃないもん・・・」
「そんな怒るなって」
「怒ってない」
「じゃぁ、もっと笑え」
優しく笑いかけてくる夕季。
そういう仕草一つひとつに惚れたのかも知れない。
「・・・分かった。笑う!」
「愛鈴には、その笑顔が一番似合ってるよ」
「うん!」

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