《MUMEI》

 「処で、もうそろそろ学祭だよな」
その話題が出てきたのは翌日、抗議の中休みの事だった
そういう催し事に然して興味がない鳥谷は適当に短い返事を一つ
「トリ、お前ってなんでそんなに覇気がねぇのかな。まだ21だろ!?」
更けすぎているとの突っ込みに、周りも皆頷いて見せる
何となく釈然としないものを感じはした
だが態々tるきやってやるのも面倒だと、友人に話の続きを促してやる
「で?もうすぐ学祭ってのは解ったが、何かやんのか?」
「よく聞いてくれた、トリ!俺達は学部全員で喫茶店をやろうかって話がでてる!」
聞いてみれば瞬間に過る嫌な予感
このままこの場に居るののは得策ではないかもしれない、と
席を立ち、逃げの体勢を取ってしまえば
「ちょっと、待て。鳥谷」
友人の一人が気色の悪い猫なで声を出す
更に嫌な予感を覚えたが、肩を掴まれ逃げる事が出来ない
「お前、ウェイターな。これ、決定事項だから」
「はぁ!?何だそれ!」
有無を言わせぬそれに異を唱えてはみるが耳を貸すものは無く
「なら、お前今日此処に行ってくれな」
一枚のメモを渡される
もうこうなってしまえば何をこちらが言おうが無駄
仕方がなく講義が終わり次第行ってみる事に
「鳥谷君、私も行ってもいいですか?」
面倒くさいというのが顔に出てしまっているのだろうか
小鴨が鳥谷の顔を覗き込んでくる
一緒ならきっと楽しいです、との小鴨
どうにも小鴨からの(お願い)には弱い様で
鳥谷はそれならばと渋々ながら承諾していた
そして全ての講義が終了し放課後
渡された地図を頼りに、鳥谷と小鴨はその店を目指す
「処で、私達はここに行って。何をすればいいんですか?」
ふと小鴨がソレをとうてくる
鳥谷は歩く脚はそのままに考えてはみるのだがその実何うも解らない
取り敢えず行ってみれば解るだろう、と歩き続け
到着したソコはとある古着屋だった
「あら、可愛いらしいお客さんだこと。どうそ、ゆっくり見て行って頂戴な」
入ってすぐ出迎えてくれたのは
見た目美人だが明らかに男声の店主で
その違和感に小鴨は戸惑い、つい鳥谷の後ろへと隠れてしまった
今からここで何をしなければいけないのだろうか
全く見当がつかず途方に暮れていると
「……和志、仕事」
ソレを見兼ねたかの様に別の声が割って入る
無意識にそちらへと向いて直れば其処に
知った顔が立って居た
「あら、和泉。お帰り」
「……ただいま」
現れたのは同学部の友人、小林 泉で
仕事とはどういう意味なのかを問うてくるその店主へ
「大学祭、あるっていっただろ。喫茶店やるから衣装揃えたいって」
小林からの説明に、店主はそういえばと納得の表情
そして鳥谷らを手招くと店の奥へと入っていく
「さ、此処から好きなものを選んで頂戴な」
連れられ入ったそこは様々な衣装が並んでいる部屋で
詳しく聞いてみれば、貸衣装もやっているとの事で
小林の顔効きもあって、格安にて貸し出してくれることに
「んー。そっちのお嬢さんにはこれなんてどうかしら」
店主はやたら楽しそうに衣装を選び始める
とっかえひっかえ衣装を宛がわれ、小鴨は戸惑うが
何とか堪えようとしているのか、表情に力が籠ってしまう
「あら。そんなに怖がらなくても、取って食ったりはしないわよ」
安心して、と片目を閉じて笑んで見せると、店主は次に鳥谷へと向いて直り
そして徐にギャルソン風の衣装を手に取った
「次はそっちのアンタよ。これ、着てみて」
「は!?俺も着るのか!?」
「当然!ほら、さっさと脱ぐ!!」
問答無用に服を引っぺがされ、強制的にその衣装を着せられる
着心地はどうかを問われ、鳥谷はだが別段何を感じる訳でもなく
取り敢えずは普通を返し、似たような服を学祭様に何着か借りる事に
「じゃ、用意しておくから。また取りに来てね」
笑顔の店主に見送られ、鳥谷らはその場を後に
店を一歩出るなり、互いが同時に吐く溜息
店主のキャラクターの濃さに疲労感が半端ない
「……何か、食って帰るか」
何が食いたいかを小鴨へと打てやれば
小鴨は店を探すように辺りを見回し始め、そして
「クレープ、食べたいです」
その店を指差した

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