《MUMEI》
おまじない
−−−−−−−−−


「お父さん、お父さんなの」

「あぁ里緒、お父さんだよ。ごめんな里緒」

「今までどこに行ってたのよ。私待ちくたびれてたんだからね」

「里緒とどうしても話したいことがあってね、里緒はお父さんのことを恨んでいるかい?」

「恨んでなんかないよ。お父さんは悪くないってずっと思ってるよ。だから戻って来てよ」

「ありがとう。でもお父さんはもう戻れないんだ。分かってくれ。里緒はお利口さんだから分かるよね。今からお父さんの言うことを聞いて欲しいんだ。
里緒はこれから誰も恨んじゃいけないよ。恨みってのは人間の感情の中で1番不要な物なんだよ、だから人を恨まないようにする為のおまじないを教えてあげるよ。里緒は今恨んでいる人はいるかい」

「………うん。いる」

「そうかい、それじゃあ目を閉じて」

私はお父さんに言われたとおりに目を閉じた。

「それじゃあ今恨んでいる人を頭の中に思い浮かべて見て。………思い浮かんだかい」

「うん。思い浮かんだよ」

私は山本を思い浮かべた。

「そしたら、その人が幸せにしてるところを思ってあげて」

「恨んでいる人なのに?」

「そう、それでも思ってあげて」

「うんわかった」

「……………思い浮かんだかい」

「うん、その人が笑ってるところを思い浮かべたよ」

「よかった。里緒はお利口さんだね。これから人を恨みそうになったら今みたいにおまじないするんだよ。そうすれば里緒はきっと良い大人になれるよ」

「うん、私は良い大人になるよ」

私は目を開いた。

でもお父さんの姿が見えない。

「お父さん、どこにいるの」

「里緒、今お父さんが言ったことを忘れちゃいけないよ。それじゃあね」

「お父さん、どこ、どこにいるの?
答えてよ。お父さん、
お父さん


お父さん−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−」

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