《MUMEI》

自身の地位を確かなものにするための、唯の身代りでしかなかったはずの田所
それだけだった、筈なのに
「ヒトというのは、本当に不可解だ」
己が胸の内、考えれば考える程解らなくなっていく
もし、田所を素直に欲したならば、その答えは得られるのかもしれない、と
岩合は田所の頬へと手を添えるとそのまま唇を重ねた
軽く触れ、深く貪る
戯れの様にソレを繰り返せば、田所の身体が僅かに反応を見せ始める
「……っ」
田所が僅かに息をはく声が聞こえ、身じろぎをする
だが目を覚ますには足りない刺激の様で
唇を離してやれば、また穏やかに寝息を立て始めた
「寝顔はまだ、子供だな」
情事の際見せる表情はあんなにも色濃いのに
その寝顔は年相応にあどけないものだった
「……寝るか」
このままこうしていても仕方がないと田所の隣へと横になり
そして何となく、田所の髪を梳き始める
手にしっくりと馴染む手触り
何度も撫でているうちに田所手が突然に岩合の手を掴む
起こしてしまっただろうか
様子をうかがってみれば、だがそうではない様で
また笑みを浮かべて見せる田所へ
岩合はその額へと触れるだけのキスをしてやりながら
そのままゆるり寝に入っていったのだった……

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